山の紅葉のある日

秋晴れの美しい日、山小屋仕舞いに出かけました。テレビニュースが日光の紅葉を伝えてくれました。実家は日光街道沿いにありましたので、紅葉の時期になると、目の前の通りは、ずっと、ずっと、車の列が延々と連なっていたものでした。というわけで、未だに日光の紅葉は見たことがないのです。その代わりといっては何ですが、山は見事な紅葉の真っ盛りで、緑から黄色、黄色から山吹、橙、橙から朱色、赤、真紅のグラデーションの美しさに目を奪われました。

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村から山の家に向かう途中です。山の紅葉は今が盛りです。畑は冬籠もりの準備に入ります。張り巡らされていた鹿避けのフェンスは外され、写真にあるビニールシートも早晩なくなり畑本来の地面が現れます。土が喜んで深呼吸しているようです。

 

山の暮らしはこれから寒さが厳しくなります。常駐している方は、「でも零下20℃を超える日はなくなりましたよ。」とおっしゃいますが、断熱材の入っていないわが家では、夜はストーブを焚いても寒さに凍えます。今年はこれが最後の山暮らしです。

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家の近くにある池の畔の紅葉です。かつて池には魚が放流されていましたが、昨年はコロナのため、山菜祭りなども中止となり、今は訪う人もおりません。青空の下、紅葉は陽の光に透き通って本当にきれいです。

 

山小屋には時々釣仲間が訪れ、俄に釣宿(!?)になります。このたびも家人の若い釣り友達の一家が訪ねてくださいました。釣宿になるときは宿の主が張り切りますし、釣りやキャンプをなさる方々は衣食住ご自分でなさる方が多いので、私は遠慮します。このたびは、一歳と四歳のお子さん連れというので、少々手伝いをと思って出かけていきました。暗くなっても釣りをしていたい若いパパは家人の後輩で元勤務先の釣り同好会の仲間です。奥様も結婚してから釣りを始められたとのこと。今回は一歳のお嬢ちゃんが一緒ですので、お二人は私とお留守番。四歳になる坊やは歩けるようになってはすぐに釣り修業を始めたとか。仕事がありますから、来た日に釣りをして翌日帰るという忙しさです。

釣場は山小屋から車で40分くらいのところにある立岩湖という、南相木ダムの下流にある人工湖です。小さな湖で標高1,070mの所にあり、あまり人がいないので、釣りをしなくても気持ち良く過ごすことが出来る静かな場所です。

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立岩湖です。見る角度によって姿が変わります。長細い湖で反対側には小さい水車小屋があります。ぐるっと回ってお散歩をする方もいるようです。


この時期の釣りのお目当ては信濃雪鱒です。

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白銀色の細い魚です。釣れるのですが、外れやすい魚です。糸を寄せて魚籠に入れようとしている間に針から外れて、アッと思うまもなく水の中に落ちます。針にかかっているときには陽を受けてキラキラと光ります。

 

姿のきれいな美味しい魚です。味がいい魚で、小さいのは唐揚げ、少し大きいのは塩焼きにしても天麩羅にしてもおいしいです。ロシア原産の外来魚だそうで、この湖では放流されているそうです。川の魚はこれから産卵期に入るので禁漁になっていますが、これは春が産卵期なのだそうで釣ることが出来るのです。冬になると湖は結氷するので公魚も釣れるそうです。他に、平鮒、岩魚、山女、鯏なども釣れるそうです。油鮠という魚はよく釣れるのですが味が落ちるので、釣れても離します。ちょっと可哀想な気もします。

この日は、昼食を済ませるとすぐ、大人二人と坊やはいそいそと出かけていきました。留守番組は小さい人のお相手をしながらおしゃべりです。一歳になったばかりのおちびさんは元気いっぱいで、家中をはいはいし、つかまり立ちし、飽きることなく機嫌良く遊びます。手も、足も、体中のどこもかしこもみな柔らかい。搗きたてのお餅のようなぷにゅぷにゅの肌はこの年齢の時だけのものです。

陽が落ちて暗くなるころに釣り人たちが元気に帰ってきました。その日の釣果は数匹。(ちょっと残念!)信濃雪鱒と公魚です。少し前に釣ったのと合わせて皆唐揚げになりました。お八つ抜きで大人の釣りに付き合った坊やは、ともかくもお腹がペコペコ。お握りと卵焼きに大喜びでした。お家では食が細いそうですが、「お変わり」が出るほどお腹が空いていたようです。お嬢ちゃんはこれまた素晴らしい食欲です。お粥もお魚も大きな口を開けて元気よく食べます。母鳥に向かって大きな口を開けて大騒ぎする雛を連想しました。バナナは自分で握って口一杯にもぐもぐさせて、1本あっという間に食べてしまいました。家から持ってきた柿も気にいったようで、もっと、もっと、早く、早くと催促しながらたくさん食べました。その旺盛な食欲には嬉しい吃驚。二人の小さい人の健やかさに心から感動しました。

次の日は、前の日お留守番だった奥様も楽しめるようにと清里の萌黄の村に行きました。途中の山の紅葉の美しさに歓声をあげ、関東地方にはない周囲を取り巻く高い山々の迫力を喜び、清里の萌黄の村に着きました。ここはHall of Hallsというオルゴール館、紙細工の家、木工細工、雑貨店、ホテル、レストランなどが様々の施設が揃っております。大人でも一日悠々遊べそうです。坊やの好きなメリーゴーランドにも二度も乗ることが出来ましたし、洒落たレストランで昼食も楽しめました。

帰りは小淵沢までお送りしてお別れしました。「また来年!」と言ったとき、赤ちゃんはすやすや、手を振ってくれた坊やも眠たそうに目を擦っていました。久しぶりに小さい人と一緒に過ごしました。楽しく思い出深いことでした。友あり遠方より・・・というのは良いですね。俄釣宿の女将さんになった気分も楽しく、幸せな時間を過ごしました。