ツ離れ、開け閉て

 最近、あれ、と思った言葉があります。「ツ離れ」と「開け閉て」です。

 まずは「ツ離れ」です。ほぼ同年代の数人と話をしていた時、子供の歳の数え方の話になった時、たまたまその場に居合わせた方たちが「ツ離れ」という言葉をご存じありませんでした。そんな言葉はないのかなと思って電子辞書を引いてみると、電子辞書の国語辞典には拾われていませんでした。ネットで検索してみました。二つ解釈がありました。一つは寄席の客の入りをいい、10人以上なら「ツ離れ」ということになるという使い方です。もう一つは、子供の年齢を言うとき、9歳までは、一つ、二つ、三つというように、数字の後に「ツ」をつけて言えますが、十歳になると「ツ」が付けられなくなります。それで「ツ離れ」です。私の知っている「ツ離れ」はこちらの方でした。

 子供の頃、年齢は満で数えていましたが、慣習的にお正月になると歳が一つ増えた気分になりました。十歳になる元日に、「十歳になるとツ離れだからちょっと大人になる」、だから「人前ではお父さん、お母さんではなく、父が、母がと言いなさい」と言われました。そのような次第で、テレビで私よりだいぶ年上の大人が「お父さん」「お母さん」と言っているのを見たときは、少しばかり驚いたものでした。いまでは何の違和感もなく、かなり多くの人が年齢に関係なく、「お父さん」、「お母さん」といいますから、言葉も世に連れ、なのでしょう。

 もう一つは「開け閉て」です。これも子供の時、周囲の人たちは「あけたて」と言っていました。ですが、最近「あけたて」よりも「あけしめ」の方が圧倒的に多く耳にします。「戸を閉(た)てる」という言い方がありますから、戸を開けたり閉めたりすることを「あけたて(開閉)」と言っていたわけです。電子辞書の「あけたて」には、「開け閉て」という漢字もありますが、「開け立て」の方を正規にしています。戸や襖、障子などは「あけしめ」でも「あけたて」でも良さそうですが、「人の口に戸はたてられぬ」の場合、「立」を使うと、口に戸を立てる図は絵になりません。「閉」ならば、黙って口を閉じることだという意味がすっと理解できるのですが。まあ、言葉は生き物ですから、変幻自在なのでしょうが。