アニメ 薬屋のひとりごと

 今、夢中になっているアニメです。これはかなり知られているようで、今さら私が、とは思うのですが。

 時代不詳の中国が舞台です。衣装や雪が降積む景色が美しいところを見るとかなり昔の、南ではなく、どちらかと言えば北の中国が舞台のようです。主人公は17歳になる少女、猫猫(マオマオ)で、養父である医者に育てられていましたが、人買いに攫われ、売られて後宮で下女として働くことになります。

 彼女を取巻く登場人物はまず、後宮の管理者である壬氏(ジンシ)とその守役の高順(ガオシュン)。国随一の美貌の宦官と噂の高い壬氏は、字の読めない下女として働いていた猫猫が読み書きができ、薬師としての知識と技術があることを見抜き、上級妃の一人である玉葉(ギョクヨウ)の侍女になる道筋を用意します。

 猫猫は花街で生まれ、遣手婆と三人の妓女に育てられて、後に養父に引き取られました。賢く用心深く、慎重で、無口、無愛想ですが、薬と知識への好奇心以外には興味がなく、酒と(毒にも薬にもなる)薬草となると夢中になって我を忘れます。

 アニメはテレビの無料ビデオで見られ、目下23話まで見られます。毎回何らかの事件が起こります。が、事件の解決だけで話は終わりません。回が進むに従って、後宮の人間関係や猫猫の生立ち、養父の過去などが少しずつ、少しずつ明らかになっていき、小さな過去の事件が細い糸で繋がって、ある日大きな事件となって表面化するという、ミステリー仕立ての要素があちこちに見えてきます。

 例えば、壬氏の正体はよくわからないのです。後宮全体の管理者ということになっていますが、本当に宦官なのかどうか、知る人は多くないらしいものの現皇帝の弟らしいとか、あるいは皇帝が東宮だった時代の妃の子で、同時期に生まれた先帝妃の子と取違えられた皇帝の子ではないかなど、謎多き人物ですが未だ明らかではないのです。

 猫猫の養父は腕もよく、広く深い知識もあり、西方に留学した経験もある優秀な医官でした。が、先帝妃の出産と現皇帝が東宮だったときの妃の出産が重なり、その時の処置の仕方が問われ、医官は追放されました。その詳細も今はまだ謎です。おそらく、後で明らかになって、そのとき、もっと重大な何かに繋がっていくのだろうと思っています。優秀なのに要領の悪い世渡りの下手な医官が、なぜ花街の妓楼を相手にする医者になったのかという経緯も、なぜ妓楼であったかということも、後になってからわかるのではないでしょうか。その詳細はもっと後になってわかるという仕組みになっているのだろうと思います。

 ミステリーでは種明かしはルール違反でしょうから、あまりいろいろ言えないのが残念ですが、よくできたお話なのです。もともとはライトノベルだったそうですが、私はアニメから入りました。

 絵が大変綺麗です。宮廷や花街の姿、夕方に灯の点る街、長い廊下に点々と置かれた灯取り、建物を包む影や闇の暗さ。人の動きや表情、衣装の色彩や陰影も鮮やかです。雪がしんしんと降る場面は何度見ても飽きません。雪が空から落ちてくるとき、雪片は揃って落ちてくるのではなく、一つ一つがそれぞれの大きさ、小ささ、動き方、早さ、遅さで降りてきます。その場面を見たとき、子供の頃の、雪が空から落ちてくるときの様子を思い出しました。満点の星の場面も見事です。遠くの星、近くの星、瞬く星、微かに揺れる星、風の吹く様、木々の枝や葉がそよぐ様、風で裾が乱れる様子、日が花や葉に光を当てる様子。折々に挿入される歌も場面に合っていて心地よい。

 では見てみようかな、なんて思ってくださる方がいらっしゃると、おいしいデザートをご一緒しているような気になって幸せですが、それには言葉が足りないかな。