2011年の東北の大地震のとき、各地での大被害を思えば言うも恥ずかしいことですが、大事にしていた杯が割れました。きれいに割れていたので、捨てるに忍び難く大事に閉まっておきました。
それから12年、この杯が金継ぎで蘇りました。金継ぎで継ぐということは頭の隅にはあったのですが、慣れないことですので手が出ませんでした。少し前に、金継ぎの講座に出たいという娘が「割れ物の陶器ないかしら。金継ぎに使いたいので。」と言いますので、この杯が日の目を見たというわけです。
漆を接着剤に使い、金や銀、その他の塗料材を重ねるなど細かい作業があり、乾く時間を待つと結構日数がかかります。二か月ほどたったころ、出来上がってきました。はじめてにしてはなかなかの出来で、以来、晩酌の友になっています。
金継ぎそのものは縄文時代でも漆で継いでいたそうです。最初の金継ぎは中国から贈られた陶器に鎹(かすがい)が使用されたそうで、このエピソードはあちこちで見つかりました。「子は鎹」という言葉は、もしかして、ここからきているのでしょうか。
陶器(チャイナ)と漆(ジャパン)の組み合わせで、文字通り、両国もそうであればいいのですが。陶器の修復に大体漆が用いられるようになったのは12、13世紀くらいから、今のような金継ぎの技法は安土桃山時代の頃だったようです。ヨーロッパも、当然、修復の技術は昔からあったようで、そのうち調べてみたいと思いました。
さて、娘はその後も金継ぎを楽しみ、新しいことを覚えるのが嬉しく楽しい様子。私も、祖父母の時代からの脆くなった陶器の欠け教材を提供ししています。普段使いの物ばかりですが。金継ぎ教室のお仲間の中には、割れたら金継ぎにすると決めて食器などを買っているという方がいらして、いつも素敵な教材と持っておいでとのこと。「私もそれを念頭に、金継ぎしたくなるような食器で揃えようかしら」などと申します。私はこっそり胸の内で、「いえいえ、今でも結構素晴らしい物がいっぱいありますよ」と呟いたことでした。