鮨屋の貝殻

友人に誘われてお寿司を抓みに行きました。友人の行きつけのお寿司屋さんです。最初は友人のお母様が亡くなられたときに、そのご供養にと私が誘ったときに勧められて行きました。彼女は仕事の帰りにちょっと寄るご贔屓のお店がいくつかあって、このお寿司屋さんもその一つです。何かを少し抓んで、好きなお酒を少し飲んで帰宅するのが楽しいのだそうです。

その日は私も仕事帰りで、「ではちょっと一杯」と二人で出かけていきました。空いていればカウンターの正面ではなく横の席に座ります。そこからは包丁さばきが見られて楽しいのです。友人は親しくなった寿司職人と「この魚は・・・?」などと話しをしながらお酒やお寿司を注文します。私は友人にお任せですがこの席は大好きです。沁一つない俎板の上で手入れのいい包丁をさばく所作もきれいですし、それをじっと見据える真剣な眼差しもいいものです。

寿司種そのものも魅力的です。特に貝類には魅了されます。鳥貝の内側の赤みがかった臙脂色、鮑の内側の螺鈿細工のように光る青やピンクの色合いには溜息が出ます。友人が「貰って帰れば?」というので、「貰って帰ってもいいですか?」と聞きましたら、「いいですよ、どうせ捨ててしまうものですから。何なら他の貝もどうですか。」というわけで、栄螺もいただくことにしました。「鳥貝は割れやすいし、手を切ると痛いので気をつけてくださいネ。それから虫が出るといけないので帰ったら煮沸消毒してください。」といいながら包んでくれました。

手前が鮑、後ろに栄螺と鳥貝があります。二枚の鳥貝のうち、手前が内側、後が外側です。内側の赤みの色は煮沸する前はもっと鮮やかできれいでした。手前の鮑ももっと色の濃い美しい艶がありました。写真ではこの光りながら輝く色がでません。寿司職人は毎日こんなきれいな色や形を見ながらお仕事をしているのですね。

「煮沸すると白っぽくなっちゃうんですがね。」の言葉にがっかりしましたら、「時間がたつとだんだん色褪せてくるから、そうしたらまた食べに来て、新しいのを持っていってください。」と慰められ、「そうだ、そうだ、」と思いました。

 友人の話によると、このお店には、毎日やってきて、さりげなく寿司種を抓みながらお酒を飲んで帰っていく50代後半くらいの女性がいるそうです。友人は「素敵だなぁ、格好いいなぁ」と思って真似をしたいのだそうですが、「毎日は無理だなぁ、まあ、月に1回かな、」と言っていました。

コロナが少し収まって、たまにはこんな時間を過ごすことが出来るようになったのですね。貝殻と一緒に幸せな心持ちで帰宅したことでした。