お雛祭り

今年は早めにお雛様を飾りました。「早く飾って早くしまう」と言われますが、例年は、そう言葉通りにはいかないものでした。今年は、コロナの日々で家にいる時間が多く、久々に早々のお出ましとなりました。 

毎年、義母の雛壇飾りと娘の木目込みの内裏雛を飾ります。一番見事なのは、義祖母がお嫁入りの時に持ってきたという、輪島塗のお雛様のお膳五脚です。お膳に合わせた雛壇はさぞ大きかったのだろうと思います。十脚あったお膳は姉と二人で分けたそうです。その方も近くに住まっており、仲のいい姉妹でした。一緒に旅行をし、よく訪ねてきては楽しげに話をしていたものでした。二人とも長命で共に95歳まで元気に過ごしました。 

お雛様のお料理は例年同じです。お赤飯、澄汁、肉団子、分葱の怒田和え、焼鮭、卵焼き、苺が基本です。これをお雛様のお膳に盛りつけ、雛壇の一番下に供えます。小さな塗りの食器に上手に盛り付けるのは少し難しいです。義母はこうした細かいことが大変上手でした。雛あられ、雛餅は雛飾りのなかのお道具に飾ります。桃の花も一枝ほど。掛軸は、義母の少女時代に家族全員とお向かいの仲良しだった方が、それぞれお雛様に因んで描いた絵を表装したものです。この家のお祖父様はこうした遊びをよくなさる方だったようです。 

宴の最初は、お供えした後に下げられた雛膳からいただきます。ここまではいわばセレモニー。その後は、別仕立ての肴も加わり、白酒ならぬ日本酒で雛の宴です。テーブルいっぱいのご馳走に舌鼓を打ちながら、あれやこれや取り留めない話をいたします。その時の一同の顔はつやつやと輝き、楽しく賑やかなひと時でした。冬が終わるころ、いつお雛様をだそうかなど、心待ちにしていたものでした。必ずしも三月ではなく、月遅れでお祝いしたこともありました。今年は子どもたちも孫もおりませんので、静かな宴になりました。でも、同じお飾り、同じお料理で、それなりに楽しく、おいしく、いいお雛の宴になりました。 

去年のお雛祭りのことを思い出します。あのときはまだ、ステイホームがこんなに長くなるとは思いませんでした。もう一年になるのですね。ワクチンは実施の運びとなりましたが、この先どうなるか、まだまだ見通せません。緊急事態宣言も延長です。とはいえ、当初に比べると、不自由さは多々ありますが、どうにか生活の仕方も心得てきました。来年のお雛様の頃には、少しは落ち着いているのでしょうか。そうならば嬉しいな、と思います。 

段飾りの古風なお顔の内裏様も、木目込みの新しいお内裏様も、静かな面差しで何もいいません。でも幸せそうな様子です。コロナ禍もお雛様の静謐を破ることはないのですね。お雛様に倣って、心静かに、淡々と日々を過ごしていきたいものだと思ったことでした。