お山はもう・・・

 先週、山に行きました。お山に近づくにつれ、そろそろ紅葉が始まっておりました。昨年見た紅葉の盛りには少し間がありましたが。村の畑も仕事仕舞いの感で、きれいに整地されていたり、この一年しっかり役目を果たしたビニールの覆いを燃やす煙が立ち上っていたり、農車の往来もめっきり少なくなっておりました。空中に漂いながらゆらゆらと昇っていく煙と匂いは子供の頃の焚火を思い出させ、懐かしい気分になります。まだこの辺は外で火を燃やすことができるのですね。焚火も暖炉の火も、川や湖や海の水も、いつまで見ていて飽きません。嬉しいときも悲しく寂しいときも、見つめていると心が落ちつきます。

 さて、この度は、前回はまだ早すぎたので次回はと思っていた木の実の収穫でしたが、葡萄やガマズミは既に時期を過ぎていました。葡萄の実は高いところに少し残っていましたが、これは鹿のご馳走になったのでしょう。前回摘んだ山葡萄の実でジュースを作ったら、それは、それは、たいそう美味でしたので、今度はたくさん摘んで・・・なんて欲張ったのがいけなかったかもしれません。それはともかく、角榛の実がどこにも見当たらないのは不思議でした。この前来たときにはどの木の枝にも実がびっしりついていたのですが、まだ殻の中の実が出来上がっていなかったので、次を楽しみにしていたのです。それが、枝には一つも見えず、足もとにもまったく落ちていないのです。栗や胡桃も見えません。枝から落ちたにしても地面には落ちているだろうと思ったのですが、一つも見つからないのです。不思議でしたが、しばらくして、もしかすると鹿が食べたのかもしれないと思い至りました。

 これまで、2、3頭、多くても5、6頭の鹿は見ましたが、最近は20頭位の鹿が闊歩しているようです。年々ネットで敷地を囲む家が増えてくるのも、なるほどです。とはいえ、蚊帳の中で寝るのとは違って、ネットに囲まれて日々を過ごすのも、と決心がつきません。30年前に鹿は見ませんでした。テンや狐らしき動物はいたのですが。今は、そうした動物よりも、鹿が圧倒的に多く、それも年々殖えているような気がします。村々にはかなり以前から畑をネットで囲っていましたから、村の人たちはずっと前から鹿との共生を遣繰りしてきたのでしょう。山の中は禁漁区なので、目下は為す術無しです。が、このままで行くと、遠からず困ったことになりそうです。

 いつもの散歩道を歩いていましたら、ピンクの花が咲き誇っているかのような風情の木を見つけました。

真弓の実です。外側の薄いピンクが殻で、中の赤みの強いのが実です。殻も実もそれはきれいな実です。上は少し大きく、実がよくわかるように、下はたくさんの実がついているところを撮りたかったのですが、上も下もあまり変わりません。残念!

真弓の木です。ピンクの花と見えたものは真弓の実です。あんまり美しく鮮やかなので見とれました。これを真弓さんに見せたいな、と思いました。真弓さんは息子の小学校時代の同級生の妹さんです。家が近く、子供よりもお母さまと仲良くなりました。真弓さんは早くにお父さんを亡くされ、お兄さんは独り立ちして家を出ており、お母さまも大分前に亡くなり、お母さん子だった真弓さんは一人になってしまいました。一人で家は広すぎると、まもなく引っ越されましたが、健気に元気にしています。というわけで、以来、真弓さんと私はちょっと年の差のあるお友達になりました。几帳面なきれいな字で書かれた手紙を見ると、元気で嬉しいと思い、真弓という木の絵が描いてある絵はがきを見つけたときにはその絵はがきでお便りしました。真弓の木を見つけたときには知らせたら喜んでくれました。その真弓の木ががこんなにきれいな実をつけると知ったらどんなにか喜ぶことでしょう。真弓はまっすぐで強い木なので弓などに作られる木だそうで、真弓さんの人柄にぴったりの木です。こんなに美しい実をつけるのですから、こんな風に心の実を結んでくれることでしょうと思いました。

 散歩の帰り道、池の入口近くで真っ赤なドウダンツツジを見つけました。

最初、あんまり鮮やかでドウダンツツジだと気がつきませんでした。陽をうけて、本当に目が覚めるほど真っ赤に輝いていました。

こんなに真っ赤に紅葉したドウダンツツジは東京では見られません。昨年の11月、安曇野で真っ赤な花水木の葉を見ましたが、こんなに真っ赤な紅葉を見ることができるのは高地ならでは、なのですね。

 11月の初めまでは山にも来られそうなので、もう一回か二回は来られるでしょう。それ以降は、断熱材やペア硝子のような防寒設備がないと、高度1,600メートルの山で冬を越すのは厳しいです。昔の人は大変だったでしょうね。常住している方もいらっしゃるのですが、皆さん「馴れれば大丈夫ですよ」と仰います。寒がりの私は駄目かなぁ、と思いつつ、寒いところは寒い時期が良い、というのも本当だと思っているので、私の意気地のなさを残念に思っています。

 今度来るとき、紅葉は真っ盛りでしょうか。それとも盛りは過ぎているでしょうか。去年のような豊かな彩りの山々の紅葉にまた会えますようにと思っています。