春の宴 四人会

三年前に退職した私のために在職中気の合った仲間が宴席を設けてくださいました。横浜中華街の一室に集い、おいしい料理に舌鼓をうち、おしゃべりに時を忘れ、至福の時を過ごしました。以来、退職した人が次に退職する人のために場所を設定するというやり方で四人会をしてきました。今年は東京新宿の京懐石の料亭と決まりました。

48階にある料亭の部屋からは新宿の街がよく見えました。日暮れて闇が濃くなるにしたがって少しずつ灯が増えていき、宝石箱をひっくり返したように輝く夜景もよいものです。部屋の前にお内裏様が雅な姿でお迎えしてくださいました。

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いつのものかを伺うのを忘れましたが、古風な品の良い面立ちの優雅なお雛様でした。

広々と静かな部屋でゆったりと宴が始まりました。季は春、早春のお菜を使ったお料理が次々に運ばれてきました。色も香りも春、それを盛り付ける食器がまた麗しく、目と香りで味わい、いただくお味は絶品、秀逸。お料理に合うお酒も少々いただき、すばらしい宴席となりました。あまりに美しく秀逸なお料理でしたので、二、三ご紹介させてくださいませ。

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早春の山菜と小さな握りです。薄桃色の小皿には藻塩が入っています。

 お膳の脇には、小ぶりの薄桃色の桜の小枝が飾ってありました。それは持ち帰りできるといいますので、持ち帰るはずでしたが…

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若竹、独活、山椒、河豚麩です。河豚麩は初めてです。ふわふわしているのに、思いのほかしっかりした噛みごたえで、皆、驚きつつ喜びました。

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こごみ、独活などの山菜に牛肉を合わせました。手前は梅肉ソースです。梅肉をこのように使うのですね。牛肉ともよく合いました。

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焼筍です。手前の塩を少しだけつけていただきます。この塩がまた良い味です。

焼筍は板前さんがお部屋に炭火を運んで目の前で焼いてくださいました。部屋いっぱいに香りが広がりました。柔らかい筍は熱いうちにいただきますと、口いっぱいの春の香りです。

次々に運ばれるお料理に舌鼓をうち、心から楽しくおしゃべりをしました。一つ一つのお皿の量は少しなのですが、いつのまにかたくさんいただいて、身も心も堪能いたしました。最後のデザートをゆっくりいただき、すっかり寛ぎました。

部屋を出ましたら、広間に御殿飾りのお雛様が飾られていました。今日はお客様がいらっしゃらなかったので拝見させていただきました。

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明治時代のものと伺いました。王朝の雅を思い起こさせる風情のあるお雛飾りでした。お道具もよくできていて、箪笥の引き出しも開きますし、針箱の針山も可愛いながらちゃんとついています。

こちらは旧でお雛様をお祝いするので、今がお飾りの時なのだそうです。男雛と女雛の並び方は京風です。今は逆にお飾りすることが多いそうですが、それは昭和天皇の時に欧風に倣ったからと伺いました。

心ゆくまで旧交を温め、四月からの日々を元気に過ごし、また来年お会いしましょうと、幸せな気分で帰途につきました。