節分

このところの寒さで、寒がりの私はすっかり外に出なくなり、炬燵に丸まる猫の如き日々を暮らしました。郷里の寒さに比べれば東京は暖かいとは思いますが、この地に馴れてしまいますと、身体もだらしなくなります。暖かい部屋の中でぬくぬくしながら、多少は良心の咎めを感じつつ、無為徒食の日々となります。

それでも、「そろそろ節分だ」と思い、重い腰を上げて、お豆を買いに出かけました。節分の豆は、実家にいる頃には瀧尾神社で升に入った豆をいただいたものでした。その時、柊鰯をお勝手口や裏木戸に飾りました。夕方になるとあちこちから「鬼は外・・・」の声が聞こえてきます。たいていは父親と子供の声だったように思います。「ないたあかおに」の話を知ってからは、「鬼は外」は可哀想かな、と思いました。「福は内、鬼も内」という地方もあるそうですが、それならいいですね。

節分が終わるとほどなく初午です。家の裏に小さなお稲荷さんがあるので、紙の幟旗の正一位稲荷大明神と白抜きされた文字を筆でなぞります。ご近所からも幟旗をたてに来てくださる方がいます。紙の幟旗は近所のお店で売られていました。昭和30年代のころから次第に幟旗を売るお店がなくなっていきました。我家でも幟旗をたてなくなっていきました。

もう一つは「しもつかれ」といわれる料理です。鮭の頭、鬼おろしですりおろした大根、人参、油揚げ、節分の大豆などを酒粕と一緒に、ゆっくりじっくり煮込んだものです。初午の日にお赤飯と一緒に裏のお稲荷さんにそなえます。東京では「しもつかれ」という料理は知られておらず、鬼おろしを売っているお店もなく、これは栃木県だけに伝わるものとその時知りました。「しもつかれ」の作り方は同じですが、家々で味など多少の違いがあるようです。子供の頃はおいしいとは思いませんでしたが、大人になってから、これはいい酒の肴になることを知りました。鬼おろしを手に入れて作ってみようかなぁ、などと思うこの頃です。