5月下旬に川上村に来たときには、山躑躅がきれいでしたが、7月に来たときには山躑躅はすっかり姿を消し、額空木が咲き始めていました。
今、朝晩は涼しさを通り越して、山では上に一枚羽織らなければなりません。朝、ベランダに出てみますと一匹の蝉が手すりにとまっていました。
朝の光を受けて透明な羽がきらきら輝いています。4㎝弱の小さな蝉です。調べてみると小蝦夷蝉です。この辺は東京で耳慣れている油蝉やミンミン蝉は鳴きません。韮崎まで降りてきますと油蝉やミンミン蝉の鳴声が聞こえてきます。5月に来たときには春蝉でした。夏は蝦夷蝉か小蝦夷蝉なのだそうです。鳴き音はモーターのような機械音に似ています。傍によっても動きません。どうやら気温が低くて暖かくなるのを待っているようです。
8月はじめにやってきたときには、すでにお山の季節は進んでいました。今回は、最初の数日はよいお天気でした。去年はベランダを塗り替えましたが、今回は網戸の網を二枚ほど張り替えました。山小屋とはいえ最低限度のメンテナンスはしなければなりません。山の生活もなかなか忙しいです。
お天気が良かったのは最初だけで、週の後半からは雨続きです。ニュースによれば九州や広島などは大変な大雨。大きな被害も出ており、しかもまだ雨は続くというのですから大変なことです。「八大龍王、雨やめたまえ」と祈る思いです。被害の出ているところは、何年か前にもニュースで知った地名です。同じ場所になんども「今までにない」大雨に襲われるとは。ニュースで知る大雨の地域が知人友人の住所に近いところですと心配になります。電話をかけて「大丈夫」と聞くとホッとします。とはいえ、土砂崩れに巻き込まれた、などのニュースは聞くも辛いことです。まだまだ雨は降り続くようで、これ以上被害が大きくなりませんようにと念じるばかりです。
山も雨続きです。一日中雨の音、風の音が聞こえます。山で聞く雨の音は街中で聞く雨音と違います。街中では、舗装された路上を水を跳ねながら走る自動車の音が良く聞こえます。激しい雨の時でも、街中の騒音は遠く、近くから聞こえます。救急車やパトカーのサイレン音も聞こえます。屋根を打つ雨音、窓硝子を打つ音が聞こえます。山で、何よりも耳を打つのは木々の葉を打つ音です。風で枝葉がざわつく音は、風があれば雨の日だけでなく晴れていても聞こえます。一瞬、雨なのか風なのかわからないことがあります。良く聞けば違いがわかるのですが。
これだけザワザワいっているのに、なぜか静かです。天候にかかわらず人の声はほとんどきこえません。雨が降ると小鳥も蝉も鳴きません。大きな虫も飛びません。いつもは台所や床を歩き回る虫も、雨が降るとあまり出てきません。寒いせいか蟻も姿を見せません。本当に蟻は、寒くなると、そして冬には、巣に籠もって暖かく過ごしているのかもしれません。
この雨で山はすっかり秋になるのでしょう。来る途中、あちこちに桔梗やコスモスが咲いていました。薄もチラホラ土手を飾っていました。ああ、もう秋なんだと思いました。地元の人の話では、お盆が過ぎると秋風が吹き、空はもっと青くなり、秋の雲になり、夕焼けが透き通り、鮮やかな赤になるそうです。東京ではまだまだ猛暑の日がありますが。(とはいえ、この雨続きのあとで最初に晴れた日、空の色はどこか秋めいていました。)
大雨の一夜が明けた朝、吃驚したことがありました。ベランダから下を見ると、なんと、茸がいっぱい出ているのです。前日はまだ一つもありませんでした。雨続きで寒くなりましたので、一晩で一気に茸が出たのでしょう。茸って一晩で出てくるのですね。
きれいな生成りの3-8㎝位の大きさです。なんという名前かわかりませんが。調べてみると、どうやら食用になる茸のようです。茸は食用とそうでないものは形も色もよく似ている場合がありますので、迂闊には食しない方が無難のようですが。
もうしばらくすれば、この辺は茸がたくさん出てくるはずです。この辺ですと、花猪口というおいしい茸が出るはずなのですが、私は見つけたことがありません。郷里の方ですと乳茸という茸があります。笠は赤茶色で、茎に切目をいれると白い汁が出てきます。日本酒と醤油だけで煮たのがおいしいそうです。茸料理の本を見ると郷里で知ったメニューは出てきません。東京にきてから乳茸も見ていませんので、本当においしいかどうか確かめる術もないのですが。
今回の山の家は雨の日々でした。東京が涼しいくらいですから、こちらは涼しすぎて、朝はストーブを焚きました。ストーブに火を入れると、いよいよ秋だなぁ、と思います。お盆休みもお終いで、お山はそろそろ本格的な秋になります。いよいよ、いつもの生活に戻るときです。そろそろ帰らなければなりません。