壮絶な闘い?

平和な1日が終わり、夕食の後片づけをしようと台所に立ったときのことです。な、なんと、揚茄子を狙って蟻の一軍が押し寄せてきています。思わず、はしたなくも、とんでもない悲鳴が漏れていました。 

そもそも虫は苦手で、ロバート・リンドの“Insect”を読んだ時、その嫌悪感にはいたく共感したものです。嫌いな虫の中でも、東京に来るまでその存在すら知らなかったゴキブリと蟻はその双璧です。蟻は物心ついたときから見知ってはいましたが、地面だけでなくうっかりしていると手足にまで登って来ますし、どうにも好きにはなれませんでした。「蟻とキリギリス」のお話しを聞いても、やはり蟻は好きでないと思いました。『ファーブルの昆虫記』で、彼は日長一日蟻の行列を見ていて飽きなかったといいますが、そういう人もいるのだと思います。私も外で見ている分には面白いかもしれないと思います。ただ、私の生活圏内に立ちいらない限りの話です。それならばゴキブリも蟻も共存できないというわけではありません。 

蟻との最初の闘いは小学生の息子と一緒に糸瓜の苗を植えた年のことでした。当時二階に暮らしていたので、一階に数本の苗を植え、二階のベランダまで紐を渡したのです。夏の陽射しを和らげてくれる葉陰にたくさんの糸瓜が実っている図を思い描き、楽しみにしていたのです。それ自体はたいそう上手くいき、心豊かな夏を過ごし、糸瓜もたくさん収穫でき、その後たくさんの糸瓜の束子ができました。 

ところがです。糸瓜を収穫した頃、台所に群がっているたくさん、たくさんの蟻を発見したのです。見れば二階のベランダから部屋を横切り、隣の台所まで長々と蟻が行進してきているのです。糸瓜と柿の木を伝って侵入してきていたのです。キャー!ではなく、まさに、ギャー!です。1㎝から1.5㎝位の大きさの真っ黒い蟻たちが我家を侵略してきていたのです。怖がって騒ぐだけの私は初戦では役に立たず、家人が一人でがんばりました。

しかし、それ以降は騒いでいるだけではどうにもなりません。それからの蟻との壮絶な闘いの日々は、思い出しても心がおかしくなりそうです。雨戸付近には薬を撒きましたが、台所は食品がありますからそうもいきません。触りたくもない蟻とのドキドキしながらの一騎打ちです。あるいは複数の敵を一人で迎え撃つ図です。蟻たちの道を断ち、迷い込んでくる蟻を追い出し、退治しているうちに、もし蟻が私と同じ大きさだったらどれほど恐ろしいことだろうかなどと想像し、一層、蟻に対する恐怖感と嫌悪感を強めたのでした。1週間、1ヶ月、2ヶ月と経つうちに蟻の数は少なくなり、姿も次第に見えなくなり、そうこうするうちに悪夢も薄れ、それは忘却の彼方へと去って行ったのでありました。 

さてそれから幾星霜(!?)。このたびの蟻は3㎜か4㎜の薄茶色の小さい蟻たちです。台所の北側の窓から侵入してきたのです。今度はギャーではなくキャーです。(経験は人を強くする?)ともかくも水際での初戦は奮闘の末なんとか凌ぎました。たまたまコロナ感染防止のために消毒用エタノールがありますので、蟻たちを駆除した後、窓敷居にエタノールでシュッシュッと消毒し、きれいに、きれいに、台所用品もすべて丁寧にお掃除しました。ところが次の日にも第二団が押しよせてきます。ウーンと唸った後、これもエタノールで駆除し、その後、蟻は酢の臭いが嫌いだというので、窓敷居を酢で拭いてみました。(蟻もさるもの、酢を上手に避けて入りこもうとします。)エタノールを吹き付けますと漏れがないのでその方が効果がありそうです。まずはそれで大体おさまりました。が、朝、昼、晩、律儀に偵察蟻が様子を覗いにやってきます。これもしばらくたてばいなくなるだろう、いなくなるに違いない、と切に期待し、希望している次第です。

蟻は庭の至る所に巣を作っているので、庭の蟻まで退治することはできません。そこまでしようとも思いません。ただ彼らと一緒に同じ家の中で暮らすことは御免被りたいのです。目下、我家が侵略されないよう、出入り口で食い止めようと、眦を決し、薙刀を持った弁慶のように立ちはだかっている日々です。本音を言えば、「キャー!タスケテー!!」