明翔会第3回研究報告会

3月20日、21日の両日、明翔会第3回研究報告会がオンラインで開催されました。明翔会は公益信託松尾金藏記念奨学基金受給者の同窓会です。松尾葦江先生にお声をかけていただいて、数年前、先生が進めてこられた奨学金のこと、明翔会の報告会の事を知り、以後毎年、報告会での発表を楽しみにしておりました。昨年はCOVID-19流行で開催ができなくなりましたが、今回はオンラインによって実施されました。 

オンラインが会議、学会、授業などで行われるようになったばかりの時には、こちらの不慣れもあってオロオロしましたが、次第にその良さもわかってきました。このたびの研究発表では、ハンドアウトに代わる映像資料が鮮明で、良く工夫されており、説明がよく理解できました。会場発表でもスライドなどが使われますが、パソコンはすぐ手元にありますから映像資料が見やすいのです。準備はさぞ大変でしょうが、会場に来られない、専門外の視聴者にも理解してもらおうという努力がそうした資料の工夫に見えました。 

一日目は「<ボルデスホルム祭壇>における宗教と芸術の機能」、「近代教育とプロイセン一般ラント法(1794)」、「イスラームのペルシア化が持つ力―20世紀イラン知識人の宗教事象の記述の修辞性―」の三研究報告、二日目には「古代スリランカの灌漑施設に関する考古学的研究―GISSfMを用いた研究事例の紹介―」、「除目史料の可能性―花山院と藤原実資―」、「久米邦武筆禍事件と神道宗教論―宗教学説の受容を中心に―」の三研究報告と、「障がい者雇用をきっかけとしてディーセントワークを考える」という記念講演がありました。

一日目はいずれもヨーロッパとイスラムについてのご研究でした。かつてローマのグレゴリウス大学で、中世の教会史のクラスを聴講させていただいた日々を思い出しました。教授は、十字軍の頃に、ヨーロッパとエルサレムの間で、人質にとられた巡礼者の解放を目指しイスラムと交渉するために創設さ修道会の修道士でした。そんな修道会が現在もなおあるというのが不思議でしたが。 

クラスではビザンチン教会とローマ・キリスト教会の関係とその歴史を学びました。日本にいる時には、西ヨーロッパのキリスト教にばかり目がいっていましたが、2世紀以来、公会議ビザンチン世界で開催され、キリスト教神学の骨格や基盤はその地で体系立てられたこと、キリスト教会史はその初めから、ヨーロッパの国々の歴史そのものだったということに気づかされました。彼の地にとっては近代になるまで、日本は彼らには関わりのない、遠い、まさに極東の小さな国だったのです。日本とは全く違う歴史を持った国々だったことをいまさらながらに気が付いたのでした。

デビッド・マコーレイの『カテドラル』という絵本があります。子ども向きというより、大人が楽しめ、勉強になります。中世のカテドラル建築がどのように出来上がっていくのかという過程がよくわかります。また、『大聖堂』というケン・フォレットの小説は、12世紀に3世代にわたる大工がカテドラルを完成させる過程が縦糸と、そこに起こる事件が横糸になっている小説です。発表を聞いていて2冊の本が思い起こされました。また、ポーランドでみたカテドラルの模型で、屋根が木造だったことを思い出し、ノートルダムが焼け落ちたとき、そうか木造だったのだと思ったことも思い出されました。また、The SourceというJ. A. Michenerの小説は、ユダヤのある地域を、5000年前から戦後のイスラエル建国までの歴史を描く大河小説ですが、昔も今も、あの地域は複雑で紛争が絶えなかったようで、何とかならないのだろうかと、折々にあの小説を思い出します。三研究発表は内容の濃い、テーマも興味深いしっかりと資料に基づいた報告で、こうしたことを心で思いつつ、引き込まれて耳を傾けました。 

2日目は、スリランカと日本の平安時代と近代にテーマをとった報告でした。スリランカという国のこと自体についてはセイロン紅茶程度しか知らない無知ですが、彼の国には紀元前5世紀頃から12世紀まで使用されていた石造の貯水灌漑施設の遺跡が無数にあったということに、吃驚し、改めて、恥ずかしいことだと思いました。同時に、この歳になって新しいことを知って喜ばしくも思いました。続く2本の報告は日本史に関わる内容です。どちらについてもほとんど何もわかりませんが、興味深く聞きました。花山天皇の時代については、かつての同僚が平安時代の日本史専攻で、良くお話ししてくださったことと重なりました。神道の宗教性については私も以前から関心がありました。お三方の研究報告からは多くを学ぶことができました。 

最後は障がい者の雇用を核にした講演で、講師はNPO法人ディーセントワ-ク・ラボで仕事をしておられる方です。身の回りにも様々の障害がいを持つ人たちがおり、SDGsの活動に関わっている知人もおり、深い関心がありました。活動の目的が、障がい者の雇用の問題から、すべての人に居場所がある社会を目指すという話に、元気と励ましを受け取りました。私の知っている人たちに話してあげようと思いました。 

今回の報告を準備してくださった方々のなかには、赤ちゃんや子どもさんを育てながら、忙しい中がんばってくださった方もいらした様子が、ズームでわかりました。コロナの日々の中、それでなくともお忙しいのに、これだけ準備をなさってくださったことに感激しています。真摯に研究を重ねながら、人として成長しつつ、健やかに研究を続けておいでの研究者を育て続けた、松尾金藏記念奨学基金の真価を改めて感じたことでした。そしてこうした機会に出席させていただいたことを心から感謝しました。大変幸せな二日間でした。