冬に向かって

暖かく気持ちのよい日が続き、小春日和とはこのような日かと喜ばしく過ごしておりました。世の中は平和な日和とは裏腹で、思えば先行き怖い日々です。とはいえ、無事に朝を迎え、無事に夜を迎えることができる日々はありがたいことなのですが。 

3月以来ほとんど家で過ごしステイホームの日々です。用事のない限り家にいますが、時折歩きます。スポーツ、アウトドアは無縁ですが、歩くのだけは苦になりません。一駅、バス停二つくらいなら普通に歩きます。小春日和のあとの天候は不順で、時には着る物に困ります。草木はだいたい季節の移りを確かに伝えてくれるのですが、しばしば季節を外した開花も見られます。寒暖の乱高下に戸惑う人間と同じように、草木も困っていると相哀れむ一方、思いがけない花に出会って、それは嬉しい驚きです。 

今日は散歩の出がけに玄関脇に、くすんだピンク色の、小指の先ほどの小玉の花の群れを見つけました。我家でこの花を見たのは初めてです。それもこんなにたくさん。この花はこれまでもよそのお家ではよく見かけたものです。名前はわかりませんが、目には馴染みのある花です。通りすがりに見かけるたびに、何という名前だろうと思ってはいたのです。思いがけず心にかかっていた花の群れを見て、思わず「我家にようこそ」と声をかけました。近々、名前を調べてみようと思います。

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名前のわからない花です。たくさん群れて咲いています。今までは他所のお家でしたのでよく見られませんでしたが、今度はよくよく観察しようと思います。

もうすぐ冬かしらと思わせる日に、たった一輪で咲いている薔薇を見つけました。夏の名残どころか秋の名残の薔薇です。家の中からは見えないところにあるので普段は目にしません。外に出て歩き出すと垣根越しに見えるのです。四季咲きの薔薇で、春から秋の初めごろまで、折々に、二つ、三つの花が開きます。夏の日々には少し濃いピンクでしたが、今日の薔薇は優しい桜色でした。最後の薔薇の花です。たった一輪、柔らかい風を受けて、気持ちよさそうに陽の光を浴びていました。「庭の千草」の白菊も夏の名残の薔薇もメロディに淋しさがありますが、今日の最後の薔薇は淋しいところはなく、爽やかで清々しい佇まいでした。

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小春日和の日に撮りました。空の青と薔薇のピンクが何とも言えず美しく、しばし我を忘れて見とれました。

すぐ傍に薔薇の実が二つ三つ艶々していました。小学生だった時、学校帰りに男の子たちが薔薇の実を食べたらお腹をこわしたと言っていたのを思い出しました。お帰りの会の時、先生が「薔薇の実や青い梅の実はおなかをこわします。食べないでください。まして学校帰りには。」とおっしゃいました。

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薔薇の実は思ったよりも大きな実なのですね。食欲をそそるというよりアクセサリーにしたくなるような綺麗さでした。

薔薇の花に「いってまいります」と言って、二、三歩先に行くと蔦の垣根に花らしきものが見えました。年中緑色に見える蔦ですが、なぜか秋になると茶色の葉を落とします。いつの間に茶色い葉になるのでしょう。蔦にも花が咲くのですね。今までそこまでは見ていなかったせいか、花には気が付きませんでした。たくさんの緑の粒のいくつか、小さい、小さい白い花を咲かせているのです。50年近くも見ていて今頃気が付くとは。本当に「ごめんなさい」でした。

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たくさんの緑の粒の中のいくつかが花を開かせています。一斉に咲くという感じではないようです。

しばらく歩いていきました。やはり今年も咲いていました。桜の花です。小ぶりの小さな八重の花をつけています。近くの小学校の裏側に咲いています。気が付いたのは数年前でした。冬だというのに桜が花をつけていたのです。はじめは陽気を間違えたのかと思いました。ところが毎年、晩秋から初冬にかけて開花するのです。どうやら陽気を間違えたのではなく、この時期に咲く桜のようです。よく見ると幹に「小福桜」という札がありました。調べてみると、これは冬桜だそうです。白っぽい小さな八重の花を咲かせる可憐な桜です。小さいサクランボの実もなるそうです。花の色は咲く時期で濃淡があるそうです。春にも咲くそうで、その時が一番華やかだそうです。名前がわかって、しかも毎年会えることもわかって、大変幸せな心持になりました。

 

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小さな八重の花は可憐できれいです。50年近く、毎日のように行き来して、見ていたのに気が付かなかったのですから、なんと物の見えない、と思いました。「目明きは不自由ですな」という言葉を思いだしました。幹のあたりの花は見えるのですが、上手に撮れなかったことが残念です。

今日の陽気からすると、季節は冬に向かっているのでしょう。草木の群れと一緒に、晩秋、初冬の日々を健やかな心で過ごしたいと思いました。